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派遣労働者のキャリアアップ支援の今後について

2013-11-15  /  ブックマーク はてなブックマーク Yahoo!ブックマークに登録

スペシャルインタビュー

派遣労働者のキャリアアップ支援の今後について

独立行政法人労働政策研究・研修機構総合政策部門副主任研究員 小野 晶子様



  8月に「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会(座長=鎌田 耕一東洋大学法学部教授)」が出した最終報告書は、派遣労働者のキャリアアップ措置を人材ビジネス企業に求めました。ただ、人材ビジネス企業からは、その具体的なイメージがわからないとの意見も聞かれます。
  同研究会で委員を務めた小野晶子氏は、キャリアアップには20代など「若年層の教育訓練」や「適正な評価制度」のほか、?気づき"を与える「相談の機会」を設けるべきと提言しています。小野氏が描くキャリアアップの具体的なイメージ像をお聞きしました。     (聞き手 編集部=坂元浩二)


―研究会ではキャリアアップ措置を求めました。

小野  「キャリア」という言葉は、平たくいうと「職の連鎖」です。「職の連鎖」によって職業能力が高まり、賃金も向上すれば「キャリアアップ」しているといえるでしょう。ただ、多くの派遣労働者の現状は「職の連鎖」はあっても能力や賃金が伸びているとは言い難い。
  非正規労働者の能力開発の機会は正規労働者より少なく、特に3者関係の就業形態である派遣労働では、派遣先、派遣元双方が教育訓練に消極的になる危険性があります。経済合理性や企業の論理、短期的な展望により、教育に「投資」しても、「回収」できない"リスク"があると考えているからでしょう。事実、労働政策研究・研修機構(以下=JILPT)が派遣元に対して実施した調査では、「能力開発に寄与しているのはどこですか」との問いに対し、雇用主である派遣元がもっとも低い数値となっています(=グラフ)。


派遣労働者の能力開発システムが外部労働市場全体のモデルに

―人材ビジネス企業には積極的に職業能力開発の支援が求められますね。

小野  2010年にJILPTが行った「派遣社員のキャリアと働き方に関する調査」(派遣労働者調査)では、派遣労働でキャリア開発できると感じているのは20代など年齢が若い人、現在の派遣先や派遣元での勤続期間が短い人、仕事が定型的な人です。相対的に見て、職業経験が浅い層で、派遣先での教育訓練効果が高い。
  派遣労働者は非正規労働者全体の5%台と少ないですが、キャリアアップのシステムがうまく確立すれば、外部労働市場全体へのインパクトは大きいでしょう。

職種別の客観的な評価制度の構築が必要

―若い世代の教育が最も重要ということですが、具体的な取り組み方法は?

小野  派遣労働者の中にはキャリア形成の考え方に温度差があり、人によって意欲や能力も違います。つなぎで働いている人、家計補助的に働きたいが責任のある仕事に就くのは嫌だという方も実際にいます。すべての派遣労働者に教育訓練を施すのはコストの面からも現実的ではありません。本当に必要としている層にセグメントを決めて集中的に投資したほうが、効果が上がるでしょう。
  また、派遣労働者のスキルや働きぶりを「評価」することです。評価されることによって、目指すべきキャリアの方向性が明確になります。3者でスキルアップの目標と達成を話し合う機会を設ける。評価自体も難しく考えず、目標管理シートを3者で共有すればいい。
  「評価」のツールとして、職種別のキャリアのラダー(はしご)をつ くり、緩やかに賃金とリンクさせます(=図)。補助的業務からスタートし、賃金と連動して段階的に主体的業務や応用・判断業務にステップアップさせます。派遣労働者は派遣元を移動する可能性がありますから、出来れば職務遂行評価基準を業界で統一し、派遣労働者のキャリアを共有するツールを作ることが理想です。肝心なのは、派遣労働者として働いたキャリアの評価を持ち運びできるようにすることです。





―客観的な評価制度が必要なのですね。

小野   派遣労働者と派遣元が派遣先と対等に賃金(派遣料金)交渉するには、根拠となる客観的な評価制度が必要です。スキルや職務遂行能力を客観的な評価指標とし、賃金に反映させます。例えば、株式会社メイテックのように自社の中で優秀な人材の育成と適正な評価制度を確立させ、派遣先への強い価格交渉力につなげている例もあります。現状では、派遣労働者が声を上げないと賃金は上がりません。ある派遣社員は賃金交渉を独自で行い「一人春闘です」と冗談ながら話してくれましたが、派遣労働者に「声」を上げる意識を高めてもらう必要もあります。また、キャリアラダーや評価制度を作ればすむのではなく、有効に機能させるためには、派遣元のエージェント機能を高め、高い能力を持つ社内スタッフを育成しなければなりません。

自らをやる気にさせるきっかけを与える“気づき”の場の提供を

―評価制度のほかにキャリアアップ措置で重要なことは?

小野  正社員は「異動」しながら職業能力が伸びていきます。派遣労働者にもキャリアアップの観点に基づいた「異動」があってもいい。その人が成長すれば正社員に転換出来る可能性も出てきますし、転職も望めるでしょう。
  キャリアへの?気づき"を与える「相談」の場も重要です。正社員にはキャリアについて相談できる上司や先輩などが社内にいますが、派遣労働者のキャリアは派遣先の正社員と同じではなく、孤立する恐れがあります。派遣元や派遣業界内で職種ごとの交流の場を提供するのもいい案です。同じ職種の人たちが集まれば、同様の悩みを乗り越えた人、自分の目指すキャリアを歩んでいる人に出会うことも出来ます。同じ目線でより具体的に相談し合えるのです。
  新しいキャリアコンサルタントの採用やセミナーを開設にはコストが掛かりますが、かけるべきはお金でなく知恵や工夫なのです。人を育てることを要求された今、人材ビジネス企業は「教育者」としての一面も持ち合わすべきで、これは奥が深く非常な難題を突きつけられています。単に「回収」にこだわって教育の「投資」を惜しまず、チャレンジする発想を持ってほしいと願っています。

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