新年明けましておめでとうございます。
 昨年は、労働者派遣事業を取り巻く経営環境は一段と厳しい年でした。1日も早い景気の回復祈願を年頭の辞といたします。

 さて、人材派遣業界は不況の長期化に加え、新政権が日雇い派遣を含む登録型派遣や製造派遣などの原則禁止を求める労働者派遣法の抜本改正の審議も重なりました。法改正は派遣事業の将来像を左右するだけに、人材派遣業界は不安を抱きつつ審議の成り行きを注目してきました。
 その結果、労働政策審議会の労働力需給制度部会(清家篤部会長)は2カ月半に及ぶ9回の部会審議を取りまとめ、年末ぎりぎりの12月28日午後、諏訪康雄労政審会長から長妻昭厚生労働大臣に答申されました。答申された部会報告の全体は資料をご覧ください。

 答申は前文と本文で構成されています。
 この案は、25日の部会以後、部会長が労使双方の意見調整を行った上で最終的にまとめたものであり、28日の同部会及び上部組織である職業安定分科会、さらに本審である労働政策審議会が当該案を尊重して厚労相に答申されています。
 前文には今回の部会審議の議論全体がどのような観点でなされたかを示す重要な文言が含まれており、簡単な解説を加えつつ紹介します。

 答申された「今後の労働者派遣制度のあり方について(報告)」の前文前段は特に重要です。 「当部会としては、労働者派遣制度は、労働力の需給調整を図るための制度として、我が国の労働市場において一定の役割を果たしているという基本的な認識は変わらないが、その時々の派遣労働者をめぐる雇用環境の変化に応じて、制度の見直しを行うことは必要であると考えている」と述べています。 すなわち、法施行以来23年半の同制度を評価する一方で、雇用情勢の変化に応じ、必要に応じて見直さなければならない、との改正意義を明らかにしています。

 さらに中段に至り、次のように述べています。
 「そこで、昨今の労働者派遣制度を取り巻く現状をみるに、昨年来、我が国の雇用情勢が急激に悪化して、いわゆる『派遣切り』が多く発生しており、その中で、登録型派遣については、派遣元における雇用が不安定であり問題であるという指摘があったところである。また、特に製造業務派遣については、製造業が我が国の基幹産業であり、技能を継承していくためにも労働者が安定的に雇用されることが重要であると考えられるところ、昨年来のいわゆる『派遣切り』の場面においては派遣労働者の雇用の安定が図られず、製造業の技能の継承の観点からも問題であるとの指摘があったところである」と、労働者保護に関して問題があったことを指摘しています。

 しかし、次のようにも言及しています。
 「一方で、労働者派遣で働きたいという労働者のニーズが存在し、企業においても、グローバル競争が激化する中で、労働者派遣は必要不可欠な制度となっており、特に中小企業において労働者派遣による人材確保が一定の役割を果たしているという指摘があったところである」。

 前文は、08年9月のリーマン・ショック以来の急激な景気悪化に端を発して、国内の雇用情勢が悪化。被害の最前線に位置した派遣労働者の雇用を安定させることが改正の意義であるとしています。
 半面、グローバル経済の競争激化と労働者派遣で働きたい人たちも一定程度存在することを認めており、資料で確認すれば理解できますが、登録型派遣の原則禁止は影響の大きさを考慮して、「改正法の公布日から暫定措置を含めて5年後の施行」としている点に大きな特徴があります。

 この措置は、先の前文の前段で述べられた「その時々の派遣労働者をめぐる雇用環境の変化に応じて、制度の見直しを行うことは必要であると考えている」と結びつくものであり、"5年後の環境変化によっては登録型派遣の原則的復活の可能性を否定していない"との解釈に道を開いています。
 答申された改正案は今後正式に法案化され、閣議決定を経て、今年1月以後の通常国会に提出され審議されますが、施行期日のあり方に関して修正を求める議論を呼ぶ可能性も予想され、今後の国会審議を慎重に見守る必要があるでしょう。

 ところで、私どもは、「製造派遣の原則禁止のきっかけとなった、いわゆる大量の"派遣切り"の発生要因は『100年に1度』と言われた景気悪化にあり、労働者派遣制度自体が悪いのではない」、「違法派遣で世間の耳目を集めた日雇い派遣業者に対する業務停止命令についても、経営者の資質の問題であり、制度自体の問題ではない」と反論してきました。
 しかし、世間の派遣批判は容易に収まりませんでした。「派遣反対」の世論に押される格好で、ついには、「登録型派遣の原則禁止論」まで台頭し、労働者派遣法自体を否定する発言も出てきました。このように、異常ともいえる派遣バッシングの中には、一時的な感情論に左右されていた部分も少なくないことを憂慮し、私どもは冷静で慎重な審議を求めてまいりました。

 今回の長妻厚労相に対する労政審の答申は、部会審議に当たった使用者代表委員と労働者代表委員の両論併記が採用されています。このように、改正審議は平行して単純ではなかったことを物語っています。

 しかし、労政審の審議結果は労働者派遣制度を即座に否定せず、同制度が我が国の労働市場で一定の役割を果たしてきたことを認め、登録型派遣の改正にあたっては施行期日に猶予期間を設けたことで、最悪の事態は免れたと評価しています。
 製造派遣については、雇用の安定が図られる常用雇用の場合を例外とする措置が講じられることとなり、時代の要請を考慮に入れれば、それについても評価に値するのではないかと受け止めています。

 問題は、日雇い派遣の原則禁止が覆らなかったことにあります。労働者派遣制度は、臨時的・一時的な労働需要に対応するための労働力需給システムであれば、日雇い派遣は派遣の原型であり、一定の労働者からも支持があることを認めないわけにはいきません。その復活を求め、人材派遣業界は今後も粘り強い要望を続ける必要があります。

 最後に、人材派遣業界は今回の改正を厳粛に受け止め、「派遣労働者の雇用の安定と保護」について業務の再設計を行い、法令の求めに合わせていく必要があります。量的拡大を指向してきたこれまでの事業のあり方を根本的に修正し、コンプライアンスを尊び、派遣労働者に対するより丁寧な雇用管理を心がける必要があります。

 私どもは、今回の法改正が派遣事業の質的充実を果たす上で、良き転機となることを希望しています。

(完)

著者プロフィール
三浦 和夫

月刊人材ビジネス 主筆
三浦 和夫

株式会社オピニオン 代表取締役社長。
「人材派遣の活用法」「よくわかる人材ビジネス業界」「派遣社員活用の実際」など、関係書籍多数。

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