物憂いを感じる人材派遣業界

月刊人材ビジネス主筆 三浦 和夫


  制度改革を目指す労働者派遣法改正案は3月中にも閣議決定され、国会審議に委ねられるという。
  1985年成立の労働者派遣法の考え方が大幅に変わり、派遣先にとって有利とみられる改正案が果たして原案通りに成立するかわからない。野党は反対姿勢、メディアも賛否両論。業界関係者の反応も一様でない。


先行きに不安を抱く業界反応

  業界を歩いていると、次のような声が聞かれる。
  「今回の制度改革は、私たち派遣業者にとって“規制強化”です。『人規制』と『雇用安定措置』は有期雇用から無期雇用につながり、それで本当にやっていけるかわかりません。やるしかない、という思いです」、
  「これからは『派遣ではなくて職業紹介をしなさい』と言われているみたいです。『それができなければ無期雇用をせよ』と。非正規雇用の割合が増えてそれを抑える考え方が色濃くなり、派遣事業の存在感は小さくなりました」、
  「制度改正は圧倒的に大手に有利です。優良派遣事業者を認定する仕組みも導入されるそうで、一般論としては良い試みに映りますが、厚生労働省による『中小切り捨て』の意図を感じます」。
  中には、「もう一度改正審議をし直して良いのではないか」という声も。「ここまで大幅な改革の必要があったのか。審議会の模様を耳にするたび不安でした」とまで述べる。
  制度改正と求人難で悩む中小業者は瀬戸際に立たされたような言い方である。
  制度改革案が大臣に建議され、閣議決定と国会審議を控えながら、“なぜいまさら?”の感を抱く。“それならばもっと早く異論を述べるべきだったはずだ”と思うが、改革の中身は時間の経過とともにずしりと重い、と言って良さそうである。


波乱含みの労政審議論

  振り返ると、今回の労働政策審議会の議論は荒れ模様だった。公益代表委員が「在り方研の審議は机上の空論だ」と発言して波紋を投げかけ、派遣業界代表者がオブザーバーの立場で発言すると労働者代表委員側から「しゃべりすぎる」とクレームをつけられる。昨年末に予定していた大臣への建議は結果的に越年してしまった。過去の改正時と比べて月刊誌の取材に対する関係者の口も重いのである。
  厚生労働省や審議関係者の各位には恐縮な言い方となるが、“国会審議の結果がどうなるかわからない”といった微妙な空気を感じるがどうか?安倍内閣の理解の元で民主党政権下の規制強化とは正反対の議論をするはずなのに、業務の範囲を自由化した99年改正、製造派遣を解禁した03年改正時と比べて業界に明るさは感じられない。
  制度改正関係の有識者は次のように話している。
  「今回の制度改正では(実態と乖離した)業務指定をなくしたのは良いことだ。しかし、『人で3年規制』は、3年が経てば派遣労働者を交代させなくてはいけない。仕事に習熟して環境にも慣れた当該労働者を引き続き就労させるには、有期雇用から無期雇用に転換する必要がある。派遣先にとっては一見良い結果となったようだが、派遣元には雇用責任が重くのしかかる。制度改正としては少しバランスに欠いた印象を受ける」と。
  もう1人の業界有識者は次のように述べる。「派遣で働く人たちを有期雇用から無期雇用に転換して3年以上の派遣要請に応じたとして、その後、簡単に契約を破棄されたのでは派遣元側は痛手です。それに関する派遣先の担保は何もないのだから、ひたすら、派遣先には無期雇用転換の雇用安定措置についてご理解とご協力をお願いするしかありません。派遣元側は依然として弱い立場ですよ」と。言うまでもなく、無期雇用とは有期雇用に対するもので、正規雇用という意味では使われていない。しかし、無期雇用となれば派遣労働に長年従事しても賃上げがなければ新たな摩擦を生む可能性はある。それをどう確保するのか難しい問題として提起されよう。
  行政と業界関係筋によると、「制度改正による無期雇用といってもそれに応じる派遣労働者はほんのわずかの割合でしかない。派遣業界関係者が心配するほどのものではない」とも言う。しかし、制度改正以後、過去の割合がどのように変化するかの予測は誰にもわからない。
  制度改正では、有期から無期への転用をイメージして、「キャリアアップ措置」や「教育トレーニング」の実施・責務も明記。だが、業界内では抽象的な理解にとどまったままだ。


「制度改革の論理は国会対策を意識しすぎる」との声も

  古くから行政と業界を知る別の有識者の1人は次のように語る。
  「今回の制度改正は、先述の政令26業務がもたらす現実とのギャップを解決するのは良いとして、その一方で、『雇用の安定措置』とか『有期から無期への転換』、『キャリアアップ措置』、『優良派遣事業者の認定』などの措置は、“派遣労働はあくまで不安定雇用だ”と批判する野党の国会対策上の戦術の印象を受ける。攻めではなくて守りだな」と。
  「人で3年規制案」に対しても業界の一部からは疑問の声が聞かれる。「労働契約法の定めに準じれば5年となり、それ以上は自動的に無期雇用となるはずだ」の声は自然に思う。
  筆者は業界専門誌の主筆だから、結果として、派遣システムに関係する3者が喜べる仕組みとなることを期待している。
  しいて言えば、今回の改正の目的は、政令26業務の定めと実際の派遣労働が乖離し過ぎたことを認め、修正するためであったと理解している。政令指定の専門業務と言っても派遣の場合は、派遣先で期待される業務がある程度絞り込まれた形での“比較的専門業務”であり、“比較的”の部分だけ付随的業務を求められるのが実態なのである。
  そうであれば、政令業務の文言をもっと概略化して付随的業務が加わる余地を残し、契約の覚書の中で派遣先での具体的な“比較的専門的業務”を文書化すれば済んだのではないか、と思う。
  他方、比較的専門業務でなくて何でもこなす一般事務であれば、きちんと自由化業務として契約して各派遣元、各派遣先企業は期間制限を守るべきだったと思う。その辺がアバウト過ぎた教訓は今後に生かすべきだと思う。

著者プロフィール
三浦 和夫

月刊人材ビジネス 主筆
三浦 和夫

株式会社オピニオン 代表取締役社長。
「人材派遣の活用法」「よくわかる人材ビジネス業界」「派遣社員活用の実際」など、関係書籍多数。

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