無期雇用とどう向き合うべきか?(上)

月刊人材ビジネス主筆    三浦 和夫


  10月中旬から始まった改正労働者派遣法案の国会審議は、相次ぐ重要閣僚の辞任劇で先行きは不透明だ。人材業界から「またも審議不能に陥るのでは?」との声も聞かれるが、この欄では改正法案の成立と施行に際して手間取って見える派遣業界の準備について言及したい。問答形式で書く。



Q 小渕優子経産相と松島みどり法相が10月20日に辞任しました。安倍政権は野党の攻勢を許していますが、改正派遣法案の審議に影響はありませんか?

三浦和夫主筆 (以下、三浦主筆)  影響はあると考えたほうが良いです。「政治の一寸先は闇」と言われますが、私も今の政治状況は予想しませんでした。安倍政権は来年の消費増税という最も重い政治決断を背負った上にこのような事態が続くと、与野党の駆け引きによって、またも改正労働者派遣法案が見送られる事態があり得るかもしれません。憂慮すべきことです。しかし、その一方で、そうした政治の動きに振り回されずに、改正法案が仮に原案通り採決されて、来年4月にも施行されることを念頭に入れた業界の準備は怠るべきではありません。

Q その通りですね。さて、本題に移りますが、オピニオン社が9月下旬に開催した無期雇用に関するセミナーは賑わいを見せましたね。この現象をどのように評価されますか?

三浦主筆  そうですね、東京、大阪、名古屋の3会場で開催したところ百人を超しました。内心、出足の好調に驚きました。セミナーのテーマは改正法案に盛り込まれた「無期雇用とどう向き合うべきか?」でした。それについては技術者の大手特定派遣事業に従事した元幹部、その後のキャリア形成支援 に関するセミナーは、独立行政法人の主任研究員が講師となりました。私も一部講義を拝聴しました。それぞれ中身が大変濃く、経営者にとって勉強価値は十分あると思いました。


中小派遣元企業の出足はもうひとつ


  特に、資本系派遣元企業の幹部の方々の参加率が高かったのには驚きました。大手企業も参加しています。しかしながら、独立系中堅企業以下の動きが鈍いな、との印象を受けました。そのことが、法改正以後の業界の変化を示唆しているように思われます。おそらく、中小規模の企業の反応は法案が成立してから動き出すかもしれません。でも、“それでは対応は遅い”と思いますね。

Q おそらく、どのように準備して良いか、まだわからないのかもしれませんね。抜本改正になるので…。そこでお聞きしますが具体的にどうすればよいとお考えですか?

三浦主筆  法施行以来29年目の抜本改革の動きについて行けないかもしれません。当初、私もそうでしたから(笑)。 無期雇用の実際とキャリアアップ支援の中身の解説はプロの講師にお任せしますが、今さら賛否を云々していては出遅れるだけです。そこで、法令が改正された場合、“自分が派遣元企業の経営者だったらどのように準備に着手するだろうか?”という点についてお話ししたいと思います。


無期雇用候補者の人選が必要


  まず、無期雇用とキャリア形成支援は一対です。無期雇用は派遣で働く人たちの雇用の安定に資するものです。今後、派遣元は優秀な派遣スタッフを無期雇用にして抱え込まなくてはいけません。優秀であればあるほど派遣先は期間制限を超えて使いたがるのですから当然ですね。それゆえ、必要に応じてスキルアップのトレーニングもしなくてはいけません。無期雇用と表現していますが、自社の正規雇用に編入して顧客の業務処理をする派遣担当者だと思えば良いのです。労働契約法上無期雇用への転用は避けられませんね。2018年がそのピークです。
  そこで提案ですが、まずは、各営業拠点長クラスに対して、優秀なスタッフの人選をさせることから始まります。勤怠と調和性、スキルの両面で優秀かそうでないかを判別する必要があります。それに、彼らを実際に使用している派遣先の評価を加えます。できれば、マニュアルを作って実施したほうがわかりやすいでしょう。
  第1グループは、専門業務で長期にわたって就労しているスタッフ、第2グループは自由化業務で期間制限の3年に近いスタッフです。そのように分類します。それらを洗い出してリスト化し、現実的に稼働スタッフ数の何%が無期雇用となるかを判断しなければなりません。その後、年度別に目標値を掲げることも必要ですね。
  無期雇用の派遣社員は、派遣先の景気の変動によって、待機を余儀なくされる場合もあります。待機期間中は他の仕事を紹介しなければなりません。それがなければ、お給料を支払う義務があります。
  無期雇用経営者啓発セミナーの木原文男講師が指摘するように、派遣元側はリスク負担の意味からも無期雇用派遣社員の派遣料金をアップする方向で見直して、派遣先に交渉する必要があります。そのためにも、当該社員のためのキャリアアップ支援をしなければなりません。大手や準大手ではその辺についての準備が少しずつですが進展していると予想します。資本系派遣元では、親企業又はグループ企業の意向をヒヤリングして、先の無期雇用対象者の人選を進めたほうがよいと思います。中小派遣元の稼動人員は少ないので、これからでも間に合います。

  Q 先日、テンプスタッフグループのインテリジェンス社が一般派遣をWEB登録にスイッチすると発表しました。それは、無期雇用導入との関連はありますか?

三浦主筆   大いにありますね。登録型の一般的事務派遣の利益率は年々落ちています。その分野の思い切った合理化を図り、無期雇用化の導入に備えなければなりません。経営的には、利幅のない箇所を見直して、利幅を今後多く見込める分野つまり無期雇用に経費を振り分けることとなるでしょう。そういう観点で見ると、今回の改正案はシステム転換を促しているとも言えそうです。WEB登録は業界全体に波及する可能性があります。

  Q WEB登録の普及で派遣サービスのオペレーションシステムは大幅に変わりますね。

三浦主筆  その通りです。コーディネーティング部門は合理化の対象となります。これまでは、登録の応募者に派遣元のオフィスに来てもらい、登録カードの記入からスキルチェック、面談を行います。1人につき平均2時間をかけていたと聞いています。こうしたアナログ的な登録システムをデジタル化することで合理化は図れます。コーディネーターの数は順次削減され、営業職に転換されるでしょう。

著者プロフィール
三浦 和夫

月刊人材ビジネス 主筆
三浦 和夫

株式会社オピニオン 代表取締役社長。
「人材派遣の活用法」「よくわかる人材ビジネス業界」「派遣社員活用の実際」など、関係書籍多数。

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