「新」人材派遣物語   Vol.2

   月刊人材ビジネス主筆    三浦 和夫


  人材派遣業はそのほとんどが労働者派遣法で規制されています。しかし、事業は状況の変化に対応せざるを得ず、法令の主旨と異なる実態も生じがちです。規制と実態の乖離が法施行後まもなく発生し始めました。労働省と人材派遣業界の間を行き来する日々が続きましたが、経営は青息吐息でした。




政令指定業務と現実のギャップで混乱が始まる


  だいぶ以前のコラムでも紹介したように、法施行間もなく業界と指導監督するハローワークの間で、「派遣スタッフのお茶入れや、電話応対、買い物などのお使い」は政令指定の業務の範ちゅうか否かで議論を呼んだことがありました。当時の法令は政令業務を具体的に文書化している以上、それを逸脱する配置行為が法令違反であるとの判断は合理的です。

  これに対して、業界側は「政令業務の文書記載はわかるが、日本の企業では主業務に加えて周辺業務が慣例的に行われているので認めてほしい」と要望しました。この問題の解決は先送りとなり、“周辺業務を10%以内にとどめる”との指導内容が出るまで10年くらいを要したと記憶しています。

  法令と実態の乖離は他にもあり、私自身も業務の中身を具体的な文言で政令に定めることに疑問を抱きましたが、当初業務の文言を熟知している高梨晶信州大教授(故人)からは多くを聞かれませんでした。私の勝手な推測ですが、派遣業務を政令で細かく文書化しなければ当時の労組等の反対をおさえることが困難だったのではないかと思います。

  このように、30年前に施行された労働者派遣法は初っ端から紛糾したのです。今回の改正派遣法は様変わりしました。中身の是非はともかくすっきりしていると思います。


谷口次官の予言どおり派遣法のスポークスマンに


  さて、月刊誌創刊後の私は先のような法令の解釈と実態の違いや、今後のあってほしい方向などを関係者の取材でこつこつ誌面化し続けました。数年も経つとずいぶん情報と知識が蓄積しました。そうなると、講演の講師をお願いされるケースが増えて、ちょっとした副業となりました。

  今では、弁護士や社労士の人たちが講師を担うようになりましたが、当時のスポークスマンは私くらいしかいなかったのです。新聞やビジネス誌、求人誌などで私の露出が多くなると、出版社から単行本執筆の依頼が舞い込むようになり、9冊の書籍を世に出すまでにプロ化したのです。

  労働者派遣法令が難解であるため、私は労働省と東京都庁に毎日のように通い詰めました。当初の労働力需給システム室は法施行の翌年には民間需給調整事業室と名称を変更して戸苅利和氏が室長に就任しました。戸苅民需室長と私は同じ年齢でもあり率直な意見も交換しました。そうした雰囲気は次の大石明室長にも引き継がれて交流が進展したのです。




岡部晃三事務次官も月刊誌創刊5周年パーティに参加


  1991年7月、月刊人材派遣は創刊5年を迎えました。そのため、東京千代田区のルポール麹町でパーティを開きました。岡部晃三労働事務次官が来賓者として出席して祝辞を述べてくれました。「労働者派遣法が施行されて5年、施行に合せて創刊された月刊人材派遣を発行し続けてこられた三浦さんの弛まぬ努力に心から敬意を表したいと思います」と。
岡部次官のことは官房長時代からよく知っていました。パーティに来ていただきたいとお願いすると、「そうか、いつだ?」と気さくに言って日程を手帳に記しました。

  集まってくれた業界関係者と労働省、東京都のお役人たち、さらに毎日新聞社の先輩や同僚たちを含めた約250人が熱い拍手を送ってくれたのです。私は43歳でした。オピニオン社の社員数は経理とアルバイト学生のわずか2人。祝賀パーティの受付の人数が足りないことを知った派遣元企業の方々がコーディネーターの女性数人を動員して受付などを手伝ってくれたのです。

  他方、月刊誌創刊から3年間の経営は赤字続きでした。そういう中で、月刊誌を定期購読してくれる派遣元企業の経営者の人たちがずいぶん支援してくれました。

  取材を終えてノートを閉じてから営業に切り替えるのですが、顧客が困っている話しを聞きだしてそれを解決する企画案を次々に立案しました。

  法令研修セミナー、スタッフマナーブックの制作と販売、登録終了者に派遣システムを紹介するビデオの販売、派遣先企業に対する私の講演会企画などです。

  これらはヒットして月刊誌の赤字対策に貢献したのです。中でも「スタッフマナーブック」はまとめ買いが多く、5年間で20万部販売を記録しました。

  苦しいときは青島幸男作の歌を口ずさんだものです。

  “銭のないやつ俺んとこへ来い、俺もないけど心配すんな。

  見ろよ、青い空、白い雲~、そのうち何とかなるだろう”―。そんな日々を過ごしていたのです。

(次号につづく)。

(この記事は、月刊人材ビジネス2016年3月号に掲載されたものです)


著者プロフィール
三浦 和夫

月刊人材ビジネス 主筆
三浦 和夫

株式会社オピニオン 代表取締役社長。
「人材派遣の活用法」「よくわかる人材ビジネス業界」「派遣社員活用の実際」など、関係書籍多数。

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