「新」人材派遣物語   Vol.6  最終回

  人材派遣業界と政治の関係

   月刊人材ビジネス主筆    三浦 和夫


  参院選が告示され7月10日の投票日までわずか。最終回は「業界と政治」と業界の今後について私見を述べてみます。人材派遣業界は百%政治マターだと思います。労働者派遣法で規制されており、規制強化と緩和は事業の進展に影響します。法令改正に理解を示してくれる国会議員は必要だと思います。

  政治との関係をいきなり述べる前に人材派遣業界と所管官庁、国会の3者の力学関係を紹介します。




巴模様の3者関係とは何か?


  まず、(1)所管官庁と業界の関係は、専門法令等によって行政指導をする側とされる側の関係です。(2)所管官庁と国会は、法案策定と法案が妥当か否かを審議する関係です。(3)業界と国会は、陳情する側とそれを受ける側の関係です。

  巴模様とも言える3者関係は政治力学の上で大変重要です。わかりやすく言うと、(1)では許認可権を持つ官庁が優勢です。(2)では法案の審議権を持つ国会が優勢です。(3)では政治活動の寄付行為と選挙の投票行動の点で業界が一定の存在感を持ちます。

  語弊を許してもらえれば、これらは互いの利害と強弱を持った関係になりがちです。そして、時として不安定の構図となり、メディアなどはそうした力学を取材に生かして隠された情報をスクープしたりするのです。

  ちょっと脱線しましたが、以上の3点をイメージすると業界は政治に無関心でいられませんね。

  長勢甚遠先生が衆院議員をされていた10年以上も前のことを少し紹介します。当時、先生が早朝勉強会を主催していると聞いたので、私も参加しました。

  朝食弁当を食べた後、長勢議員が講演する形式。約200人の企業人が参加していましたが、周りを見渡すと人材派遣業界の参加者は皆無。“これはまずいな”と私は思いました。次の回からは個人的に親しい業界関係者に声をかけてわずかながら同席してもらうように配慮しました。




政治接近は派遣法の規制強化策以後から始まる


  業界はなぜ政治との関係に疎かったのか?20年以上も前を振り返ると、業界は行政指導という力学的に優位な行政側にだけ顔をむけていた気がします。反面、政治に対しては淡白でした。好き嫌いではなくて、“敷居が高そうにみえる”とか、“政治は良くわからない”というのが業界の真意だったようです。

  しかし、その後の2006年から10年の4年にわたって派遣批判の世論が巻き起こり、政治主導で規制強化案が練られて以来、業界は改めて政治を重視するようになったようです。私は、政権与党と野党を問わず、政治の場で業界が抱える問題点について理解してくれる国会議員が1人でも増えることを願っています。

  2011年以来、業界団体の総会後の懇親会などでは、衆参両院議員が挨拶する機会が増えました。中でも日本生産技能労務協会(技能協)は政治接近に積極的です。懇親会での政治家の皆さんの発言の中身が身内のような感じになった印象を受けます。そのようなことから、法令で許される範囲で政治献金することも時には必要だと思います。




“あれもこれも”ではなくて“あれとこれだけ”に


  さて、コラムの最後に人材派遣業の将来について私見を述べたいと思います。

  法施行以来7月1日でまる30年経った今の業界は楽観できない状況下にあると思います。いくたびの法令改正によりシンプルなTWS(Temporary Work Service)は少なくなり、雇用形式は派遣元の常用化につながる方向へと転じました。常用であればキャリア形成は必要とのことで派遣元への義務も課せられています。いわば、一般派遣の特定派遣化みたいなもので、30年前の制度設計とはかなり違ったものになったとの印象を抱いています。

  それは、“時代の流れからみてやむを得ないのかな?”と思いますが、反面、規制の性質が変ったことで、派遣事業の自由度というか良い意味での柔軟性を奪ってしまったような気がしてなりません。

  そういう中で、今後の派遣事業はどうなっていくのでしょうか?結論から言うと、“ばら色ではない”ということです。

  4月号のインタビューでも発言したように、(1)市場規模と比較して派遣元許可事業所数が多すぎて、市場との帳尻が合うためには半減する可能性がある、(2)市場の寡占化がいっそう進み、よほど特徴のある派遣事業でなければ生き残りは容易でない、(3)人口減少はもっと深刻化して派遣社員の募集の面で一段と厳しくなる―。

  何だか暗い話になってしまいましたが、“あれもこれも”という取扱高の追求ではなくて、“あれとこれだけ”という専門特化した派遣サービスのほうが光り輝くだろうと予想します。

(完)

(編集部から読者の方々へ)
月刊誌創刊30周年に寄せたコラムはこれでいったん終了します。読書率が高いので機会を改めて筆者の再執筆を検討させていただきます。

(この記事は、月刊人材ビジネス2016年7月号に掲載されたものです)


著者プロフィール
三浦 和夫

月刊人材ビジネス 主筆
三浦 和夫

株式会社オピニオン 代表取締役社長。
「人材派遣の活用法」「よくわかる人材ビジネス業界」「派遣社員活用の実際」など、関係書籍多数。

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